『愛とラブソングの哲学』

恋愛・セックス・結婚を主題とする哲学研究がある。古くからあるが最近特に活発だ。エリザベス・ブレイク『最小の結婚』なんかがそう。この本もその一つとして位置づけられるはずだ。たとえば、第2章では愛の理由について検討されている。愛に理由があるのだろうか?ある派は私たちの日常的なコミュニケーションのあり方から「ある」というだろう。なぜなら、多くの人は自分の恋人を好きになった理由を「映画の話で意気投合したから」「落ち込んでいた時に親身になってくれたから」などと正当化するからだ。でもそうすると、じゃあ映画に関してもっと意気投合できる別の人が現れたらその人に乗り換えるのかという疑問がわく。「そうだね、乗り換えるね」という人もいるだろうが、たいていの人はそんなことはしない。それでは、理由がないと考えるべきかというとそれも少しおかしい。なぜなら、感情には理由があるからだ。たとえば、人が悲しんでいる時にはそれを引き起こす理由があるはずだ。

これに対して、本書は、第1章で愛は相手にたいする感情や思考や行動などを生み出す潜在的な状態だと示す。そのうえで、第2章で愛は理由のないものだと論じている。これで、愛に理由はない派の懸念点は回避される。なぜなら、愛は感情ではないと示しているからだ。さらに、愛に理由があるとしたら、その第一候補は相手への愛が自分のアイデンティティとなっているからだというアイデンティティ説があるが、筆者はこれは良い説明ではないという考えを示している。わたしはアイデンティティによる説明は悪い説明だと思わないので、これでいいのではと思うのだが、とにかくとても面白い議論だし、よい哲学の入門書だと思う。