プレッパーについて

 最近、プレッパーのことを考えている。彼らはいまどうしているのだろうか?流行病の世界的拡散を懸念して防護マスクや隔離服を大量に備蓄し、家族だけでなく身近なご近所さんに「流行病対策セット」を配っていた女性はうまくこの状況に対処しているのだろうか?プレッパーは、終末に備えて準備する人々のことで、そのまま訳すと「準備する人」となるのだけど実際は「過剰なまでに準備する人」で、おそらく保守的な右派が大半を占めるはずだ。あと、彼らの多くは食料やなんやらとともに武器も用意している。わたしはこの人たちの存在を「プレッパーズ~世界滅亡に備える人々~(Doomsday Preppers)」というナショジオで放送していた番組で初めて認識したのだけど、日本でその存在があまり知られていない割に彼らはアメリカの映画やドラマの中によく出てくる。ディザスターものでやたら色んなものを家に買い込んでいる人とかは絶対にプレッパーだし、ミステリー・ドラマではプレッパーたちのための高級シェルターが実はインチキだったので殺人事件に発展したりする。「エレメンタリー」ではモリアーティは終末に備えて北極圏にさまざまな植物の種を備蓄していたはずだ。少し気にして観るだけでいろんな映画やドラマにプレッパーが出てくる。

 彼らをすごいと思うところは、どんな災難が降り注ごうとも自分は絶対に生き残る側にいようとするところだ。そのためになんでもする。地下に核シェルターも作るし、何千枚ものN95マスクを買い込むし、老後の資金も切り崩す。大災難が訪れた後も抗がん剤を飲み続けられるように、いま手元にある薬をケチケチ飲む。ものすごく本末転倒だと思う。だいたい、「終末」のあとに広がった世界というのはとてつもなく過酷なわけで、それでも生きようとする意志はわたしには分からないし、なんかもう生き残ろうと準備しようとする時点で生命力の違いを感じる。わたしには絶対無理。覚えている人はほとんどいないと思うが、「ウォーキング・デッド」の初期のキャンプのメンバーにアメリカ疾病予防管理センターに残り爆死することを選んだジャッキーという黒人女性がいた。わたしは彼女と同じ側の人間だ。人間っぽくみえるけど人間ではないやつらが襲ってきたり、ついさっきまでともに助け合っていた人が自分を食おうとする人間でない奴に変貌と遂げたり、じゃあ人間相手なら安心できるのかといえば、なんだったらゾンビよりも人間の方が恐ろしかったり、こんな世界やってらんない。だいたい、プレッパーはポールシフトに備えたりするけれど、ポールシフトが起きた後にも生きていたい?というかポールシフトのために備蓄するってなに?なにをするの?だって地球の自転が変わるんだよ?対策なんてあるの?

 あと、終末後の世界を描いた「ウォーキング・デッド」なんかを観ていると、大きな災難の後も生き残るためには人を殺す練習をしておくのが一番なのではと思う。リックやシェーンがすんなりゾンビの世界に適応したように見えたのも彼らが保安官代理だからのように思えるし、ダリルはもともと暴力的な環境にいた。キャロルは被害者としてだけど暴力が日常で、だからこそ途中で人を殺すことの葛藤を抱えるのだろう。あと、元ピザ配達人のグレンはたしか人を殺していない。生き残るために人を殺す練習をするのかと考えると、それは嫌だなと思う。基本的にリックやシェーンのような人を警戒する人間ではいたいが、彼らのようになりたくない。でも、もしプレッパーであるなら、こうした練習は必須であるはずだ。だって、わたしが万が一に備えて用意した食料とか薬とかをほかの生き残った人々が奪いに来るかもしれないのだから。そして、やっぱり、わたしはそこまでして生き残りたくないし、いまどうにか自暴自棄にならないでいるのは図書館や本屋へ行けなくてもどうにか本や論文にアクセスできたり、一週間以上誰とも話していなくても食事の時にNetflixで「ギルモア・・ガールズ」を観たりしているからなのだろうと思う。